2014
私の推理は、4章で「戦人が金蔵の孫である」ことが確定してしまったことにより、根っこから崩れました。
ベアトと戦人の母子による派手な親子喧嘩が盤面のゲームという説は、一章でルドルフが戦人に語ろうとしたシリアスな親子のお話フラグも、戦人が金蔵によく似ているという設定も上手く回収できていたため、逆に4章でしっかり否定されなければ、私は終盤までこの説に基づいた明後日の方向な推理を展開していたかもしれません。
早めに幕を引けて良かったです。
ただ、予測していた一族をかけての争いとはレベルの違う規模の小ささで、この結果は完全に盲点でしたと。
結果として、右代宮家は完全に紗音の事情に巻き込まれただけなんですが。
当事者である戦人以外、完全なる被害者ですが。
実際のゲーム盤は紗音の恋が生んだまやかしであり、紗音と架音(とベアト)の恋が同時には叶えられない理屈を思えば、あくまで縁寿の生きる未来に順ずる現世とは異なる世界線のファンタジーランドとなるでしょう。
そんなゲーム盤でも、世界が交わった結果がきちんと反映した現世のカケラが存在してくれていたので、ただのまやかしで片付かなかったこの世界のシステムには、とても愛が満ちているなあと思いました。
何はともあれ7章の時点で、うみねこ世界の仕組みに関するシステムの回答は、出そろっているに等しい状態です。
前半の、ウィルという新たな第三者視点で物語を見ていく展開にのっぺりとした印象を抱いてしまったのですが、後半の紗音についての設定が明かされていく流れが非常に好みで、ここは一気に遊んでしまいました。
10年前だったら紗音と戦人が仲良かったというポイントや、戦人が推理小説を好んでいた設定の散らせ方があまりにも自然で、突拍子が無いようで絶対の予測が不可能とまでは行かない、竜ちゃんらしいぎりぎりの攻め方に惚れ惚れしました。
そのまま遊んだ8章も、大満足しております。
8章自体は、あくまで未来に生きる縁寿のために存在していると言っても過言ではないシナリオであり、竜ちゃんお得意の教訓がメインを張っている一種の蛇足に等しいでしょう。
それでもうみねこという作品を通じて、終わってしまうゲームとの別れに対する物悲しさと、終わらないゲームと永遠に付き合える喜びを肌で味わえたことは、大きいです。
それが良いことか悪いことかは、置いときまして。
このような表現があるというのは、大変新しく思えました。
それが大衆に受け入れられるか、拒否されるかは。置いときまして。
8章序盤の、縁寿が挑むクイズと紫文字のゲーム盤は、私自身かなりのめり込みました。
特に紫文字のゲーム盤は、ト書きも注視するという一種のメタ推理が推薦されていたことも、面白かったです。
マリアが紗音を、ジョージが架音を殺害すれば、ジョージ一家+マリア犯人説も有りだと思ったのですけれど、これはベルンが「架音は死人扱いの行方不明者」と言うようなニュアンスで断定したため、アウトだったのでしょうか……。
何はともあれ、クイズと紫文字のゲーム盤では、改めてうみねこの魅力である謎を解くことの楽しみというものを堪能できました。
紫文字のゲーム盤は、私自身、作中で推薦された通り実際に情報を書き出して遊びました。
凄く面白かったです。
真相を明かして貰えないことに対し不満を抱く縁寿へ、戦人が伝えようとする家族愛も絶妙でした。
世の中の真実と、個人の真実をイコールにする必要がないということ。
人の口から語られる真実を縁寿が受け入れなかったことも合わさり、それでは納得のいくポイントは何処にあるんだという突き詰め方は、斬新でした。
また、二人の温度差を文章媒体だけでなく、実際にプレイヤーにもミニゲームとして遊ばせることで説明した仕組みは、今作がゲーム媒体だからこそ派手にできた素晴らしい演出の一種だと思っています。
最終的に、推理合戦だって勝ち負けを競うものでなくコミュニケーションツールだと結論付けたのが、うみねこです。
元々自分の世界を大切にする自閉的観念を尊重した教訓を、ネガティブであってもポジティブとして認識できれば心が平穏になるという理論を、ここまでしつこく懇切丁寧に描写したのも、うみねこです。
これがうみねこでした。
うみねことは、こういうものでした。
私は8章の出来上がりに、大変満足しています。
8章が公開された際、悪評が蔓延ったという事実は知っております。
これは8章の作品としての質の問題というよりは、最後の最後まで密室殺人においての具体的なトリックの開示がなかったことに対し批判的な意見をお持ちな方が多い、という認識で間違っていないでしょうかね。
ゲーム盤においては、行われる討論で言い負かしたもの勝ちというルールの中、無理矢理でも何でも辻褄さえ通る弁論であれば真実とすり変えることが可能な了解がある以上、真実そのものに価値を置く意味はなく、そのことは5章の時点で読み取ることができた情報だと思っておりましたが。
ベアトのいる・いない問題と語感だけは似ていますが、このゲーム盤で重要視されるのは提示された問いが解けるか・解けないかという結果のみです。
その詳細を明かす理由も、過程を重んじる背景も、そもそもありません。
ゲームマスターの出題に対し、超常現象を混ぜずにきちんと解けるか・解けないかというジャッジを下すのも公平な立場にいる人物なので、提示される問題自体には素直な信用を置くこともできます。
提示される問題に絶対の結果が保障されている以上、求められるのはその結果に基づいている論理のみです。
そしてその論理は、どんなに滑稽な屁理屈であろうとも、対戦者の反論を封じてさえしまえば真実としてゲーム盤の世界を支配することができます。
トリックの真相を暴くことが、第一ではありません。
重きを置く場所に多くの誤解があったからこそ発生してしまった、悲しいすれ違いに涙がちょちょ切れます。
それでもトリックの答え合わせがしたいということであれば、7章のラストでウィルが色々言っている解答を御参考に、納得のいく答えを模索するのが一番楽しそうですかね。
頭柔らかくして、推理を楽しみましょう。
終わらないゲームと永遠に付き合える喜びを残してくれた竜ちゃんも、浮かばれることでしょう。
(コミカライズ版では全ての密室トリック暴いているそうですが)
しかし、ここまで言っておいて何ですが、私の場合は先んじて持っていた情報があったからこそ、縁寿のような一つの真実に固執しない観点を貫けた面は大きいと思います。
私は、天井幻想の存在を認知していました。
天井幻想が全てのトリックに当て嵌まるかどうかはさておき、何か凄い天井が何か凄く大活躍をするという頭でいたもので、鼻から密室トリックには全く着目しておりませんでした。
実際天井が凄いのは8章だけで、他の章に対しどれだけの力を天井が持っていたかというのは別のお話になったのですけれど、とにかく、天井幻想を知らない状態で本作を推理する立場を、私は想像ができません。
作品の処女性を重んじる小話が作中でも挟まれておりましたが、確かにそれはあるなあと、唸らせて貰いました。
とにもかくにも、この手法が批判を浴びたという現実を知りうることができたので、大変勉強になりました。